セガのアーケードゲーム用システム基板「NAOMI」を入手しました。
NAOMIは1998年に稼働開始したドリームキャスト互換の業務用ゲーム機です。
JVS(新JAMMAとも呼ばれています)という当時の新しいアーケードゲーム標準規格で筐体と接続するシステム基板のため、これまで遊んできたアーケードゲーム基板とは違いJAMMA端子が付いていません。
JVSについて詳しくなかったので、どうやって家で遊べる環境を用意すればわからず苦手意識もありなかなか手を出せずにいました。
ネットで情報を検索すると「JVSに対応した筐体を用意する」「筐体に入っている電源を使う」といった本格的で当時稼働していた機材を調達する前提のものが多く、保守まで考えると難易度が高いなと尻込みしていました。
ただ、遊びたいタイトルはいくつかあり、JVSを家で遊べる環境を作る事自体にも興味はあったのでちょうどよいタイミングだと思い、家でカンタンに遊べる方法を構築してみました。
JAMMA端子が無いため、これまで何度か紹介したようなコントロールボックスにそのままでは接続することができないので、今までと同じ方法で遊ぶことが出来ません。
参考リンク:自宅でアーケード基板をPS/Xbox用アケコンで遊ぶお手軽環境[CBoxUSB]
ならばいっそのことNAOMI(JVS接続)を家で遊ぶ環境はコントロールボックス無しで揃えることにしました。
※今回記載する方法は、ゲームセンターで稼働している筐体などを使用しない家庭で遊べる状態を目指したものです。
JVSに対応した筐体を使用する方法やJVSに対応しない筐体の改造方法などは記載しません。
NAOMIの接続端子を見てみる
NAOMI基板の側面に接続端子が集中しています。
前述の通り、これまで触ってきたアーケードゲーム基板についていた「JAMMA端子」は付いていません。
その代わり、少し前のパソコンやゲーム機で見かける端子がいくつも並んでいるのがわかります。
真ん中の下部分にはコンポジット(ビデオ端子)のステレオオーディオ、その横には映像のVGA端子がついています。
ここはそのものズバリ映像と音声が出力される端子です。
使うケーブルはどちらも家電量販店で市販されているVGAケーブルとコンポジットのサウンドケーブルでOKです。
その横の白い6ピンと8ピンは電源コネクタです。
8ピンの方には+3.3V、+5V、+12Vが配線されており、6ピンの方は+3.3Vと+5Vのみ配線されています。
左上にある上向きに付いているUSB端子が操作系の入力です。端子自体はUSBと同じでケーブルもUSBケーブルを使えますが、流れている信号がUSBと規格が違うため、ここに直接USBコントローラを挿しても操作することはできません。
説明書には「標準I/O」と記載されており、専用のI/Oボードと接続し、I/Oボードからコントローラに接続する案内が記載されています。(JVSに対応した筐体の場合、筐体から出ているUSBケーブルを挿すだけでOKのようです、カンタン!)
左上についている2つのボタンは左の「PSW2」がサービスボタン、右の「PSW1」がテストボタンです。
起動した後様々な設定を行う時に使うボタンです。
その右には映像出力の水平周波数設定用のディップスイッチです。
これも起動した後にゲームタイトルやモニタにあわせて設定を行う場所です。
音声端子の上に2つの光端子がついています。
これは通信対戦をする際に使う端子なので単独で使用する場合は無視して大丈夫です。
左下にピン数の違うピン端子が4つ出ていますが、説明書に全て「通常使用しません」と書いてあるので特殊なタイトル以外では無視して良さそうです。
NAOMIの主な接続端子は以上です。
映像とサウンドは市販品で大丈夫そうというのがわかりました。
あとは電源と操作周りさえなんとかすれば、遊ぶことができそうです。
NAOMI本体上部を見てみる
NAOMI本体上部から見た状態です。
本体上部分の内部基板が露出した部分にゲームタイトルのカートリッジを取り付けることでゲームが遊べるようになります。
ファミコンやNintendoSwitchでカセットを取り付けるのと同じ感覚です。
露出している基板部分を見ると電池が入っています。
時計や時刻、設定などをバックアップするための電池です。
これは市販の「CR2032」というボタン電池で家電量販店や100均など、どこでもカンタンに手に入るので新品基板入手時に交換しておけばとりあえず安心です。
その横の「EPR-21576G」と書かれたICチップはBIOSです。
基本的には触らなくて大丈夫ですが、ゲームタイトルやGD-ROMなどの拡張ユニットを取り付ける場合にBIOSのバージョンが合わず起動しないことがあるので、交換が必要です。
※説明書によるとBIOS最後のアルファベットが「F」以降はGD-ROMに対応しています。
取り外したり交換する必要がある場合は、マイナスドライバなどで無理やり取るのはNGです。
「IC引き抜き工具」等で検索すれば専用の工具がいくつも見つかるので、それらを使って取り外しましょう。
電源
筐体から抜き出した電源や大型のPC電源を使わずに、ACアダプタと変換コネクタを使ってNAOMIを動かすことができます。
JVS電源ハーネス/セガ・NAOMI等/ATX24P変換タイプ
有限会社センテック様が製造、販売しているNAOMIを含むJVSの電源コネクタをパソコン電源の24ピンコネクタに変換するハーネスです。
ヤフーオークションに「JVS電源ハーネス/セガ・NAOMI等/ATX24P変換タイプ」という名前で出品されているので検索すると出てくると思います。価格は2023年6月現在3800円で即決価格に設定されているので、誰かと競り合う心配はありません。
リンク:レトロゲームを今でもプレイできるのはなぜか 背景にいる凄腕メンテナンス職人の「匠の技」
160W ACアダプター電源 キット ミニITX電源ユニット
電源ユニットをケース内に内蔵できない超小型PCケース向けに外付けACアダプタ化するための超小型電源ユニットでATX24ピン自体がユニット本体というシンプルな構造です。
この小型電源はPico-Box社が本家のようですが、国内で入手する方法が見つからなかったのでAmazonで売っている互換品を購入しました。
NAOMIの電源について検索すると「電源がヘタる(徐々に弱くなる?)」という情報を何件か見つけました。
この電源ユニットなら格安で気軽に購入できるので仮にしばらく遊んでいてヘタった場合も買い替えの負担が少ないので楽に交換できそうです。
ACアダプタ(12V/5A)
秋月電子で購入した12V/5Aの汎用ACアダプタです。
リンク:秋月電子:スイッチングACアダプター 12V5A AD-A120P500
3つを組み合わせてNAOMI用電源完成!
ハーネスの24ピン端子にミニ電源ユニットの24ピンを接続、電源ユニットのACアダプタ端子にACアダプタを接続すれば完成です。
あとはハーネスの8ピンコネクタをNAOMIに接続すれば電源部分は接続完了です。
コントローラ周り(I/O)
NAOMI専用のJAMMA変換I/Oボードなどいくつも選択肢もありますが、今回は一番小型で手軽、さらにXboxやPlayStationのコントローラをそのまま使える「MP07-IONA-US」を使用しています。
MP07-IONA-US
JVSのI/OポートにUSBコントローラを接続できるようにする変換基板(I/O互換基板)です。
XboxやPSのコントローラだけでなく、Brook UFBを使った自作アケコンなどにも対応しているので、以前自作したコントローラをそのまま使うことができました。
ボタンアサインの変更や連射、アナログスティックやアナログトリガーなどにも対応し特殊コントローラを使うゲームも幅広く対応している万能変換基板です。
上部のJVSと書かれたUSB端子をNAOMIと接続、下部に2つ並んだUSB端子が1P/2Pのコントローラを接続するUSB端子です。
JVSの左側「POWER」と書かれたUSB-C端子は電源用です。
USBケーブルを使ったACアダプタなど、電源を供給できればOKです。
2023年6月現在、BEEPとKVClab.で販売されています。
リンク:MP07-IONA-US取扱説明書
リンク:アーケードコントローラ(アケコン/ジョイスティック)を自作しました
CN12 to USB Type A Connector
NAOMIの通常使用しない接続端子「CN12」から5V電源を取り出すコネクタです。
コレを使うことでMP07-IONA-USの電源をNAOMIからもらうことが出来ます。
ただ電源を供給するためだけですが、コンセント1つ省略できるのはシンプルな配線を目指している今回はかなり狙い通りのアイテムです。
NAOMIに接続した状態です。
USB~USB-CケーブルでMP07-IONA-USと接続します。
リンク:booth ぽめらん「CN12 to USB Type A Connector」
映像出力
RGB(VGA)接続
NAOMIのVGA端子から液晶モニタのVGA端子に直接接続しました。
NAOMI本体に付いているディップスイッチは前述の通り映像の水平周波数を設定するものです。
ディップスイッチ全部下「↓ ↓ ↓ ↓」31Khz
ディップスイッチ1だけ上「↑ ↓ ↓ ↓」15Khz
という設定になっています。
NAOMIのほとんどのタイトルは31Khzで、15Khzに設定するとゲームによっては警告表示が出る場合があると説明書に記載されていました。
現在新品で手に入る液晶モニタで15Khzが表示できるものは限られています。
VGA端子が付いたPC用のモニタならほとんどが31Khzには対応しているので、まずは31Khzに設定して接続を試してちゃんと表示できるか確認するのがよさそうです。
リンク:15Khz/31Khz対応4:3比率の9.7インチ液晶モニタはアーケードゲームの基板や旧世代PCがコンバータ無しで映る!(2022/12/08追加更新)
HDMI接続
VGA出力のRGB信号をHDMIに変換するPC用アダプタを使ってHDMI出力が出来ました。
家にたまたまあった旧PC用のRGB-HDMI変換アダプタを使ったので特にブランドやメーカーにこだわりはありませんでした。
今回接続に成功したものは1200円程度の変換アダプタです。
映像信号だけでなく音声信号も合成してHDMI化することができるので、モニタやテレビにHDMI一本挿すだけで映像も音楽も出力されるので、まさに家庭用ゲーム機感覚です。
映像のVGAコネクタと、オーディオ用のピン端子がついています。
NAOMIのオーディオはコンポジット(ビデオ端子)端子のL/R個別なので、このピン端子に接続する場合は別途「コンポジット~ピン端子」の変換ケーブルが必要です。
さらにこのVGA – HDMI変換ケーブル自体にMicroUSB端子で給電が必要です。
NAOMIとの接続イメージです。
サウンド出力
サウンドはNAOMI基板から直接コンポジットのステレオアウトが出来るので、オーディオ機器に接続出来ますが、今回はたまたま家にあったモバイルスピーカーと接続しました。
全端子が接続された状態
映像、音声(オーディオ)、コントローラ、そして電源がNAOMIに接続された状態です。
この状態で電源を入れて正常に起動すればゲームが動き出してあそぶことができます。
エラー表示が出た!
I/Oボードが見つからない、というエラーメッセージが表示されました。
全ての配線をちゃんと行っているので原因を見つけるのに苦労しましたが、「MP07-IONA-US」とNAOMIをつなぐケーブルが断線していたようで、ケーブルを交換することで正常に動作しました。
説明書、あると便利だよ!
今回、NAOMI基板を入手する前にNAOMI関連のマニュアル3冊を入手して熟読していました。
どれもオークションやフリマサイトでかなり格安で手に入れることができます。
当時パーツを使わない今回の遊び方でもメーカー公式の情報はすごく参考になりました。
「NAOMIサービスマニュアル」
NAOMI本体仕様、各種端子の説明、ROM交換や電池交換、起動後の設定方法など基本的な情報が記載されたマニュアルです。
「SEGAキャビネットJVS改造マニュアル」
セガ純正のI/Oボードとの接続方法、JAMMA変換や各種筐体への接続方法が記載されたマニュアルです。
今回I/Oボードに関しては純正品を使用していませんが接続周りが図解されているのでサービスマニュアルとセットで読むと理解が深まります。
「NAOMI NETWORK SYSTEM 改造マニュアル」
主にGD-ROMユニットとの接続方法やGD-ROMドライブをつなぐDIMMボード等に関する情報が記載されたマニュアルです。
今回GD-ROMユニットは使用していませんが、今後のために入手しました。
改造:ファン静音化
シンプル構成でNAOMIのゲームが家で遊べるようになりましたが、ひとつ大きな問題がありました。
それは騒音問題です。
内蔵されているファンが静音モデルではないので古い小型掃除機くらいの音が起動中常になっています。
もともと箱型の筐体内部に組み込まれる業務用アーケード基板なのでこの程度のファン音はゲームセンターでは関係ないのかもしれませんが、家で筐体の中に入れずに稼働させるとかなり……というか超ウルサイです。
ということでNAOMIを分解、ファンを交換して静音化することにしました。
※ファン交換という簡単な作業ではありますが、改造になりますのですでにメーカー修理対応等は終わっていますのが必ずご自身の自己責任で行ってください!
交換用静音ファン
交換用に購入したのはオウルテック社の超静音ファンです。
サイズは60mm x 60mm x 15mmで型番は「OOWL-FE0615LL-BK」です。
実はこれ、以前CPS2のマザーボードを静音化した時と全く同じファンです。
リンク:カプコンのアーケードゲーム基板「CPS2」マザーボードのファン静音化
NAOMIを開封する
NAOMIを逆さにした底面の8箇所のネジを外すとケースを外すことができます。
写真のオレンジ色のマルで囲った部分がケースを固定しているネジです。
ネジ穴が深いので長めのドライバーを使うと取り外しやすいです。
NAOMIを開けるとこんな感じ
写真の右部分が取り外したNAOMIのケース底面です。
ファンは取り外した底面側、写真だと右下部分に取り付けられています。
ケーブルがメイン基板に繋がっているので開ける時はケーブルが繋がっていることを意識してゆっくり作業すればカンタンに壊れるものではないので大丈夫です。
長年ゲームセンターの過酷な環境で活躍してきたであろう、汚れまくってくたびれたNAOMIの冷却ファンです。
パナソニック系のPanafloファンということで、特別性能が悪いわけではないとは思いますが20年以上交換されずこれだけ汚れていれば本来以上の騒音がでても仕方ないな……と思える汚れっぷりです。
ファンとケースのファン取付部分は独立してそれぞれ外せるので、ファンを取り外します。
ケース底面の冷却ファン取付部を取り外した状態です。
これもファンに負けず汚い!
静音ファン取り付け前に清掃してホコリを取り払います。
静音ファン交換完了!
冷却ファン自体はケースとファンの取付部分で固定されます。
配線はソケットの形が違うので元から付いていたファンからケーブルをカットして移植しました。
静音ファンは赤・黒・黄の3本線がでていますが、黄はファンコントロール線で今回使用しないので赤と黒を繋げば動きます。
これで静音ファンの交換は完了したので、あとはケースを閉じてネジ止めすれば作業完了です。
で、実際どれくらい静かになったのか?
iPhoneのノイズ測定アプリで測ってみました。
最初から付いていたファンは電源を入れると40デシベル程度です。
こちらが静音ファンに交換した後の計測値です。
前後の小さな山状のノイズは電源スイッチを入れた時と切った時です。
その間が稼働中ということですが、電源を付ける前とほぼ変わらない20dBを維持しています。
数値上では元のファンから約半分程度静かになったことになります。
実際に起動して遊んだ感じとしては元のファンは掃除機、静音ファンはデスクトップPCの通常稼働時くらいの印象で、静音ファンの方も稼働中にファンが回ってる音は聞こえてきますが、ゲームのBGMの方がよく聞こえてファン音は気にならない程度になりました。
まとめ
電源、USBコントローラとI/O互換の変換基板、VGAモニタなどNAOMIがゲームセンターで現役稼働していた約20年前のパーツを極力使わず、2023年6月現在ネット通販や秋葉原でカンタンに手に入る周辺パーツを使ってJVS規格のNAOMIを起動~遊ぶことができるようになりました。
当時のパーツや本物の筐体を使って遊ぶのもロマンですが、現行品を多く使うことで手軽に遊べて不具合が生じても基板以外の周りのパーツは交換が容易になるのが何よりも便利で快適です。
NAOMIの場合、GD-ROM環境を構築したり後継モデルのNAOMI2だと今回試した方法が通用しなかったり事情が変わってくる可能性もありますが、初代NAOMIとカートリッジ版タイトルは今回の方法でお手軽に遊ぶことが出来ました。
JAMMAは分かるけどJVSよくわからん!という方も、実際やってみるとわりと簡単なので是非挑戦してみてください!