新宿の歌舞伎町タワーに出来た新しい劇場「THEATER MILANO-Za」のこけら落とし公演として公開された「舞台・エヴァンゲリオン ビヨンド」に行ってきました。
「エヴァ実写化とか大丈夫なの?」「全キャラ差し替えとか原作ファン怒らない?」と気にしている人も多いと思うので結論を先に書いてしまいますが、多分一番気になるであろう観てきた感想は「観る人を選ぶコンテンツなのは確かだけど、エヴァファン的視点で見てもけっこう良かった!」です。
※ここでの私の「エヴァファン的視点」は夕方放送のTVシリーズから旧劇場版、新劇場版、各種ゲーム、コミックスなどを見ている程度には好きで、特定のキャラクターに強い思い入れや萌えなどの感情は無い、そんな温度感です。
世界観・キャラクター・設定全てが舞台用オリジナル
この舞台は「エヴァンゲリオン」の名を冠していますが、登場人物や設定から世界観全てが舞台用に新たに作られた「エヴァンゲリオンが存在する別の世界観の話」です。
公式サイトのストーリー紹介を見ても
「日本のある集落には隕石が落下、巨大なクレーターが出現、大きな被害をもたらした。そこから人類の敵「使徒」が出現した」
「使徒に対抗するため、特務機関「メンシュ」最高司令官、叶サネユキ(田中哲司)は部下の桜井エツコ(宮下今日子)とともに 四体の兵器『エヴァンゲリオン』を開発。サネユキは自らの息子トウマ(永田崇人)をパイロットとしてエヴァンゲリオンに搭乗させる。」
とTVシリーズや新劇場版、貞本義行さんのコミックス版どれとも異なります。碇シンジや綾波レイといった原作のキャラクターだけでなく、ネルフやヴィレといった組織も一切登場しません。
唯一「エヴァンゲリオン」「使徒」だけが原作と共通するキーワードです。
もうこの部分だけ見てもエヴァファンであればあるほどその鋭い嗅覚から「ヤバイ」を察知して警戒すると思います。わかります!!
僕自身も情報初出段階で公開された「設定やキャラを一切使わない新たな世界観」という情報から、それ別にエヴァじゃなくていいんじゃないの?と思って観に行こうと思えずスルーしていました。
公開直前にゲネプロ(本番と同じ状態で行う最終リハーサル)映像が公開されたのを見て一気に興味が湧きチケットを購入しました。
戦闘シーンが凄い
人形浄瑠璃のように複数の操者によって動かされている巨大なエヴァンゲリオンは独特の存在感がありました。
使徒も同じ手法のモノもいれば、そもそも生き物の類いなのかもわからない不思議なものまで様々な形状が登場していました。
舞台に登場するエヴァや使徒は同じモデルでもサイズ違いが複数用意されているようで巨大なものだけでなく人間サイズや人間より小さいサイズのものも登場して、映像での様々なアングルからの撮影をイメージした表現を行っていました。
エヴァパイロットとのシンクロはコクピットに座るのではなくGガンダムやパシフィック・リムのドリフトのように動きがシンクロするタイプに変更されていました。
神経接続の描写がワイヤーでのフライングで表現されフワっと飛び立ちエヴァとシンクロする感じが舞台的に映えているのでコクピットに座るのをやめたのは正解だと思います。
舞台とプロジェクションマッピングが凄い
舞台が平面ではなく奥に向かって登っていく傾斜がついた「八百屋舞台」の状態からスタートして、シーンに応じて傾斜が動いて壁になったり、傾斜自体を横倒しにして骨組みをトラスのように使ってセントラルドグマ(とは言ってませんでしたがそれに近い場所)へ通じる地下通路になったりとフレキシブルに形状が変わりまくっていました。
映像も背面の壁だけでなく斜めになっている床や降りてくる幕、骨組み部分をモニタに模したりと細かくプロジェクションマッピングとして利用して原作の「ビルが生える都市」や歩いている地面や背景がスクロールして移動を表現していました。
わりとどうでもよい場面転換で幕の降りるスピードと降りてくる幕に映写される映像のタイミングがピッタリでこけら落とし公演として「この劇場設備すげーだろ!こんなこともできるんだぜ」をアピールできているのが妙に関心してしまいました。
人間の動きが凄い
エヴァはわりと見てる方ですが、逆に舞台はそれほど見ていないので今回の原案・構成・演出・振付を担当したシディ・ラルビ・シェルカウイさんの他の作品は見たことがありません。
コンテンポラリーダンスを用いてキャラクターの抽象的な心情の表現や使徒の不気味な動きを見せてくれるのですが「人間ってこんなふうに動くんだ!?」という原初的な驚きが何度もありました。
同氏が2012年に手掛けた「テ ヅカ TeZukA」の主演が「シン・仮面ライダー」で舞いのような印象的な戦い方をしていた仮面ライダー第0号・チョウオーグを演じた森山 未來さんというのも不思議な共通点です。
エヴァファン的な見方
オリジナルの設定、キャラだけど大丈夫?
宇宙世紀のガンダムだけを観てきた人が初めて宇宙世紀じゃないガンダムを見た時や、一年間楽しんだ仮面ライダーが新番組になる時の違和感や軽い拒絶反応に近い感じがしました。
「庵野版じゃない方」の新作だと思えば一気にアリよりになりました。
(同時に「じゃあその理屈で行けばナディアの映画版は「庵野版じゃない方」としてアリなのか!?!?」という思いも浮かんできましたが、今はナディアの話じゃないのでその話は後日またゆっくりと…)
じゃあ舞台版エヴァは大絶賛なのか?
「庵野版じゃない方」にしては、庵野版を意識してオマージュしまくってるな、というのは強く感じました。
もちろん、そういったオマージュはわかりやすく「アンタバカァ!?」を連呼する光条・ヒナタ・ラファイエットが宮村優子さんの喋りを意識している所に始まり、庵野版を知っていればいるほど「これは旧劇場版25話『Air』で見せた弐号機の踵落としからの引用だな」とか「ちゃんとシンのゲンドウっぽい心情吐露もやってるじゃないの」とご褒美的な楽しみ方はできて楽しいのですが、その分新たな世界観や設定との違いを気になってしまうかもしれません。
毎年新しい世界観にリセットされる仮面ライダーが「変身」「ベルト」「バイク(含む専用の乗り物)」のキーワードがあればちゃんと仮面ライダーなんだし、原作の設定や世界観やキャラクターを使わない事を決めたならもっと自由度高く好きなようにしてもエヴァとして成立するんじゃないかな?という感想は持ちました。
そういえばエヴァって結構派生作品あるよね
パチンコのエヴァンゲリオンは登場人物や世界観こそ原作と同じですがカヲル君がレギュラーメンバーとして日本のネルフに長期的に参加していたりエヴァがゴジラと融合して使徒だけじゃなく怪獣と戦ったりと自由度の高い派生作品です。
ゲームでもスマホアプリ『エヴァンゲリオン バトルフィールズ』にはオリジナルのキャラクターがメイン級で何人も登場したり、『鋼鉄のガールフレンド』は当時エヴァを制作していたガイナックス自身が作ったゲームですが、そこにも霧島マナというオリジナルキャラクターが登場しOVA的な派生作品となっていました。
エヴァンゲリオンのデザイン等を手掛けている山下いくと氏が書いているノベル版『エヴァンゲリオン ANIMA』では「人類補完計画が発動しなかった世界のその後」が舞台です。
と、いう感じでエヴァンゲリオンというIPは原作が太く中心に立っている周りに色々な別バース的な展開が「アリ」なコンテンツなので「エヴァと使徒以外全部総新規」もアリなのかな、という気がしてきます。
もうちょっとマニアックな話
何度も「舞台版はキャラも設定も世界観もオリジナル」と書いてきましたし、実際オリジナルで全然別物ですが上記の通りかなり原作からの引用やオマージュが含まれています。
僕はこの舞台版はTV版拾九話「男の戰い」から最終回「世界の中心でアイを叫んだけもの」のリメイクとして見ることができました。
加えて新劇場版:破の後半やラストからQまでの空白期間の要素も多く含まれているように感じました。
特にTVシリーズのラスト2話は演劇的な手法を多く取り入れた演出で結果的には賛否両論有りましたが「見たこと無いタイプのアニメのラスト」になりました。
その演劇的手法でエヴァTVシリーズ後半を描いたのが今回のビヨンドという見方が出来て一気に地続き感が出てきたように感じました。
結論:別物もアリなら見たほうが良い!!
と、これが冒頭に結論を書いた「観る人を選ぶコンテンツなのは確かだけど、エヴァファン的視点で見てもけっこう良かった!」についてです。
大好きな作品の実写化や舞台化、ミュージカル化といった横展開を「大好きな作品を踏みにじられている」と感じる人も多くいますし、そういう気持ちも理解できます。
僕としてはどんなに横展開で派生しても元となる作品自体は変わらず存在しているので「原作最高!そっちはそっちで楽しい!」という感覚で楽しんでいます。(その派生した横展開でまた原作が潤えば新展開あるかも!?という思惑もw)
現在、歌舞伎町タワーでは「EVANGELION KABUKICHO IMPACT」という複合的なイベントを開催中で、「舞台・エヴァンゲリオン ビヨンド」もその1コンテンツという扱いになっています。
舞台版以外は映画の再演や原作アニメのキャラクターを使ったコラボイベントやフードなどの提供が行われて歌舞伎町タワー全体で様々な方向からエヴァンゲリオンを楽しむことができるようになっていました。
リンク:EVANGELION KABUKICHO IMPACT
【ゆるネタバレあり】舞台版エヴァを見て「よかった!!」と思えた話
ストーリーなど直接的なネタバレでは無いですが、舞台のラスト付近の話なので色を薄くしておきます。
少しでもネタバレを避けたい人は読み飛ばしてください。
それ以外の事はここから先に書かれていないので、ネタバレ無しで終わりたい方はここで終了です。
ラストシーンは美しい海と空が拡がり、中心に小さな島と一本の木が立っている風景を舞台の床と壁全面に高解像度のプロジェクションマッピングを使って壮大な景色を作り上げ舞台は終劇しました。
その美しい背景をバックに演者全員が横並びに登場するカーテンコールと鳴り止まない観客の拍手はTVシリーズ最終回「世界の中心でアイを叫んだけもの」のラストで登場人物全員が「おめでとう」と拍手で称え「ありがとう」で締める、あのシーンを再現しているかのようでした。
まさかラストでTVシリーズの最終回を引用しつつ、しっかり物語は終劇させるのか!とここは本当に「舞台版を観てよかった!!!」と感激しました。